壁越しのペンフレンド

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 彼女と最初に会ったのは(いや、エレベーターなんかで一緒になったこともあるかもしれないから、正確には彼女を隣人と認識したうえで会ったのは、と言うべきか)、半年ほど前だった。  その日も仕事から帰って、ロビーの集合ポストの中身を纏めて取り、部屋に入ってから改めて確認した。するとチラシやダイレクトメールに紛れて、隣の住人宛ての封筒が出てきた。 「ホントに来た。……ふーん、女なんだ」  『水上美弥子』という宛名を見て独りごちた。  俺の苗字は氷上、そして隣は水上。部屋番号があるにしろ集合ポストに苗字も出しているから、そのうち郵便なんかが間違って配達されたりするかもしれないなどとは思っていたが、性別は今初めて知った、引っ越しの挨拶回りなんて面倒なことをしなかったおかげで、マンションの住人に関する情報などひとつも持っていない。  背広を脱ぎネクタイを外してから忘れないうちにと思い立って、封筒を掴んでサンダルを突っ掛けドアを開けた。 「あ……こんばんは」  今まさに部屋に入ろうとしていた隣人──水上美弥子と鉢合わせになった。
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