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声のボリュームを少し上げて俺の足を止めた彼女は、俺が振り返ると少し居心地悪そうに視線を下げた。
「何?」
「あの、唐突になんなんですけど、映画とか観ますか?」
「映画?」
「はい。職場でチケット頂いたんですけど、私あまり興味なくて。もしよかったらもらってくれませんか?」
言うが早いか、ハンドバッグの中からチケットを一枚取り出して差し出してくる。
「いいの?」
「はい、どうぞ」
「じゃ、お言葉に甘えて」
ちょうど観たいと思っていたタイトルだったし、遠慮なく頂戴しておくことにした。
「ありがとう」
「いいえ。じゃあ失礼します」
律儀に頭を下げて彼女は自室へと入っていった。俺も今度こそ部屋に引き上げて、冷蔵庫からビールを取り出しチケットと一緒にテーブルの上に置いた。部屋着に着替えてからプルトップを開ける。ぐびりと一口飲みながら、もう片方の手の中でチケットを無意味に弄んでいた。
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