壁越しのペンフレンド

5/8
前へ
/8ページ
次へ
 声のボリュームを少し上げて俺の足を止めた彼女は、俺が振り返ると少し居心地悪そうに視線を下げた。 「何?」 「あの、唐突になんなんですけど、映画とか観ますか?」 「映画?」 「はい。職場でチケット頂いたんですけど、私あまり興味なくて。もしよかったらもらってくれませんか?」  言うが早いか、ハンドバッグの中からチケットを一枚取り出して差し出してくる。 「いいの?」 「はい、どうぞ」 「じゃ、お言葉に甘えて」  ちょうど観たいと思っていたタイトルだったし、遠慮なく頂戴しておくことにした。 「ありがとう」 「いいえ。じゃあ失礼します」  律儀に頭を下げて彼女は自室へと入っていった。俺も今度こそ部屋に引き上げて、冷蔵庫からビールを取り出しチケットと一緒にテーブルの上に置いた。部屋着に着替えてからプルトップを開ける。ぐびりと一口飲みながら、もう片方の手の中でチケットを無意味に弄んでいた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加