壁越しのペンフレンド

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「……またか」  数日後、再び水上美弥子宛ての封筒を見つめて俺は呟いていた。この辺りを担当する配達員がおっちょこちょいに替わったんだろうか。  やれやれと立ち上がりかけてふと思い立ち、メモ帳にボールペンを走らせた。 『この間はチケットありがとう。楽しませてもらった』  それだけ書いて破り取り、封筒と一緒に郵便受けに入れた。  すると翌日の夜、彼女から返信のメモが入っていた。 『ありがとうございます。また間違って入ってたんですね。映画も楽しんでもらえたならよかったです』  内容は挨拶程度の取り留めないものだったが、届けついでにちょっとした遊び心で入れたメモへの返信などまったく想像すらしていなかったから驚いた。それで調子に乗ってまたレスポンスのメモを入れたところから、このやり取りは始まった。  だから俺達はお互いに、相手のことを断片的にしか知らない。俺は映画が好きで彼女はいつかオーロラを見に行くのが夢。俺は飛行機が苦手で彼女の苦手はホワイトアスパラ。  第一印象は地味だった隣人の趣味や好き嫌いを一つずつ知っていくたびあの時見た笑顔のようにイメージが変わって色が着いていく感覚や、隣に住んでいながらメモをやり取りする、近すぎない、だけど同じものを共有しているという子どもの頃の悪戯仲間みたいな距離感が、俺は割と気に入っていた。
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