壁越しのペンフレンド

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 ◆ ◆ ◆  そういえば二週間ほど彼女からの手紙が来ていない。今までもそれほど頻繁ではなかったが、ここまで間が空くのも初めてだ。最初に会った時以来マンション内で会うことはなかったが、時々物音はするからいるにはいるんだろう。忙しいのかもしれない。  そう思っていた週の土曜日。休みとあって昼まで眠りこけてやろうと目論んでいた俺はしかし、薄い壁越しに隣から聞こえる物音で目を覚ました。  断続的な、物を動かすような音と人の話し声。数人で何か大掛かりなことをしている気配があった。  ベッドから起き上がり身仕度もそこそこに、寝間着代わりのTシャツとジャージ姿で外に出る。段ボール箱を抱えた青年がちょうど目の前を通り過ぎていった。CMでよく見かける有名な引っ越し会社のロゴが入った制服を着ていた。 「あ……氷上さん」  声に振り返ると戸口に彼女が立っていた。視線を下げて言いにくそうに口を動かす。 「あの私、引っ越すことになって……。どうもお世話になりました」  え、と思わず声が洩れた。 「そりゃまた随分急だな。なんかあったの?」 「……実家の母の病気の具合が良くなくて。父は亡くなってますし、仕事を辞めて帰ることにしたんです」 「そっか……」
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