壁越しのペンフレンド

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 俺は頭の中で彼女に言うべき言葉を探して、月並みな別れの挨拶を選び取ったつもりだった。が、出てきたのは全然違うものだった。 「……住所教えて」 「え」  意表を衝かれて惚けた顔になる彼女。俺も内心では自身の発言に驚いていた。鬱陶しがられるかな、と頭の隅で思いつつも、口はするすると次の言葉を紡いでいく。 「実家の住所。今度はちゃんと便箋に書いて封筒に入れて、切手貼って出すから」 「でも……」 「ちゃんと返事書いてね。来なかったら催促しに行くよ」  しばらくぽかんとしていた彼女だが、やがてくすっと笑みを零した。 「……北海道ですよ、私の実家。飛行機乗るんですか」 「新幹線が通った今、北海道は陸続きだ」  胸を張って言うと、さっきよりも柔らかくくすくすと笑ってから、「じゃあ」と彼女は顔を上げて俺の顔を真っ直ぐに見た。 「私にも教えてください。氷上さんの、下の名前」
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