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 人気の少ない住宅地を僕は一人、駅から自転車を漕いで自宅に向かっていた。  この辺りも昔はそれなりに活気があふれていたそうであるが、最近では高齢化が進んだことで徐々に人が減りつつあり、空き家が目立つようになっていた。  そんな住宅地の外れに、僕は小さな平屋の一軒家を借りて住んでいた。  通勤に少々時間がかかったり、駅まで行かなければコンビニエンスストアも無かったりと、決して便利な場所ではなかったが、静かで落ち着いて過ごせることから気に入っていた。  今日も疲れて自宅に帰り、いつも通りにドアを開けて家に入ると、僕は居間を見回す。  「あれ?」  才蔵の姿が見えない。  才蔵は半年ほど前に飼い始めた猫である。  才蔵は野良ネコや捨て猫を保護し、里親を募集する施設から譲り受けてきた猫である。だから、人間に対する警戒心がまだ抜け切れておらず、未だに才蔵は僕の膝の上には決して乗ろうとはしない。  それでも少しずつ慣れてきてくれたのか、最近では僕がソファに座ってくつろいでいると、いつの間にかちょこんと僕の隣に座っている。それが才蔵の定位置だった。  才蔵はブルーの被毛に、黄色と青の瞳、オッドアイを持つ、保護猫にしては珍しく、美しい容姿を持っていた。僕は癒しを求めて、ふと立ち寄った保護猫施設で才蔵に一目惚れをし、この家に連れてきたのだった。  居間の扉は閉めていたし、他の部屋にいったとは考えられない。僕はしばらく部屋の中を捜すと、ソファの下にもぐって隠れている才蔵の姿を見つけた。  「どうした?」  訪ねたところ答えてくれるわけもない。だが、才蔵がそんなところに隠れていた理由はすぐにわかった。  外から何やら騒がしい声が聞こえてきたからである。
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