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「シュウちゃんのどろだんごは、おつきさまみたいだね」
ぽつりと、春陽がそんなことを言う。
「つきはこんなデコボコじゃないよ……」
拗ねて唇を尖らす僕に、彼女は「ううん」と優しく首を振った。
「パパがとったおつきさまのしゃしんがね、こんなふうにまだらもようだったの。『くれーたー』っていうデコボコがあるから、じょうずにとるとそうみえるんだって」
春陽の父親は芸能カメラマンだったが、元々は風景写真が好きだったらしい。
僕は「ふうん」と興味なさげにつぶやいた後、こう続けた。
「……じゃあ、ハルちゃんのは、たいようだ」
春陽は胸をつかれたように、ぱっとこちらを振り返る。その瞬間、長い栗毛がふわりと波を打った。
「――たいようの、たまごだ」
繰り返す。
「くれーたー」なんて知らない。ただ、ハルちゃんが褒めてくれたのが嬉しかったから、僕も思っていたことを口にしただけだ。
今思えばそれは、意地っ張りな僕なりの、感謝の言葉だった。
春陽は何も言わず、顔をほころばせた。そのとき胸をつついたかすかな切なさが、重大な意味を持っていたのだと、僕は後で知ることになる。
それから何日か雨が降り続いて、泥だんごは作れなかった。
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