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「シュウちゃん……」  春陽が消え入りそうな声で僕を呼んだ。 「……わたし、パパとママと、アメリカにいくことになったの」  その言葉に耳を疑い、僕が動きを止めるのと同時に、彼女の小さなひざを、大きなしずくが濡らしていく。 「さいきん、おばあちゃんのぐあいがあんまりよくないし、パパも、がいこくでのおしごとがおおくなってきたから……だから、むこうでいっしょにくらそうって」  母親は海外を中心に活動するトップモデルで、父親は国内外を飛び回るカメラマン。そんなふうだったから、春陽はずっと父方の祖母の家に預けられていたのだ。  様々なことを配慮した上での決断だったのだろう。けれど、当時の僕には、「ハルちゃんが飛行機に乗らなければ行けないほど遠くに旅立ってしまう」という事実しか分からなかった。 「もう、たまご、いっしょにつくれないの……」  春陽は俯いて、悲しげに震えた声でこぼす。そして、すっと視線を上げ、こちらを見つめた。その顔はもう、涙でぐしゃぐしゃだ。潤んだ瞳で唇をぎゅっと噛みしめたかと思うと、何かが破裂したように、わっと声を上げて泣き始めた。
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