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白湯はいかがですかい
「そうだ、白湯なんかいかがですかい」
暖簾をくぐればこれだ。ボケも大概にしてくれ。そう言いたくなるのをこらえ、いつも通り座布団に腰を下ろす。
「にいちゃん元気ないねえ。そうそう、近頃の若いもんは悟り世代っちゅうてな、なんでも、やるまえから物事を諦めるんだと。経験もないからできないことばかりのくせに、できないからやらねぇっての。こりゃ日本も落ちるわけだあ」
その話は昨日も聞いたし、僕は悟り世代というよりはゆとり世代だ。だいたい世代で語るのは、団塊世代の悪いくせだ。まあ、このジジイにそんなことを垂れててもしょうがないし、恩義もあるから黙っててやるか。
「しみったれた顔だね。女はいねぇのかい。俺のわけぇころはさ、そこら辺カップルだらけでよ。そりゃもちろん、きゃっきゃうふふだったわけさ。にいちゃんも女のひとりくらいもらって、ズッコンバッコンやりゃいいんじゃねぇですかい?」
このジジイのころはそうかもな。今や男は泣いて懇願しなくともヤレるし、AVもある。だいたい、男尊女卑の昔と違って、今は女尊男卑って言われるぐらいに男は肩身が狭いんだ。草食男子って言われるけど、草しか食わせてもらえない世の中なんだよ。つっても、僕は肉を食えるタチだけど。
「いやあ寒いなぁ。そろそろ炬燵でも出そうかね。ぬっくぬくだぞ、ぬっくぬく」
ひとり楽しそうに豪快に笑う。この歳になると気遣いってものがない。他人の顔色伺いもできない。これだから老害なんだよ。
「昔はもうちっとあったかかったんだけどねぇ。今年は暖冬なんだって? エルニャーヨ現象だっけか? ありゃ嘘っぱちだね。今年も変わらず寒いよ」
毎日ぼーっとニュースばかり見てるくせに、エルニーニョも覚えられない。そりゃそうか、昨日の話題も、孫の顔すらも忘れるんだから。肩を痛めた経緯も、腰をやった経緯も。そろそろ息子の顔も忘れたころか。
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