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クニャを求める男
──目をとじて、カルナ。眠るのなんて、こわくないわ。わたくしがずっとそばにいる。
いやいやをすると、娘は細い腕をのばして首を抱き、背を撫でてくれる。微笑みは絶えない。まばたきすることにすらおびえるのをなだめて、無理に寝かしつけようとするのだ。
娘の手がまぶたをそっとおろす。あたたかにひかりがさえぎられて、意識がかすむ。
──眠らなきゃ、寿命が縮んでしまうわ! 目が醒めたら、すばらしい《まどろみ》が迎えてくれますように。……ねえ、カルナ。おやすみなさいな、ぐっすりと。ね?
誘われて、ふうっと寝入ってしまいそうになる。
いけない、眠ってはダメ。やってくる。とらわれる!
ほんの一瞬のうたたね、のはずだった。
目をひらいたとき、青年を迎えたのは、暁闇の沙漠だった。
「クニャ、……どこにいるの?」
ひっそりと呼びかける。娘はまだ寝ているかもしれない。静かに起こしてやろう。あとすこしで、望みどおりの《竜のまどろみ》が大空をあざやかに染めわける。
黄金のひかりが細く地平線を走る。沙漠と空とを峻別し、じわじわと赤みを帯びる。
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