我が姫殿下

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(どうして、こんなところにいるのだっけ)  魚の臭みが舌に残っている。泥臭さはあったが、身の甘さにおどろく。味覚は、否応なしに非日常を感じさせた。ただ塩味をつけて焼いただけだ。魚を食べたことがないわけではない。指ほどの小魚や塩漬けや乾物なら、幾度かある。でも、大きく新鮮な魚は味わったことがなかった。  いままでの悩みそっちのけになった。もうひとくち。手をのばす。気に入ったのがわかったのだろう、むかいのシェリアがうっすらと笑っている。シェリアは何度も村を出たことがあるのだ、以前に食べたことがあってもおかしくない。しかし、自分は一度も村をでたことがなかった。まったくもって、はじめての体験である。  リフィアたちの部族、クトゥ族は、内陸に集落を構えている。海や川といった自然のままの水辺は周囲にない。他族のように水上・陸上の交易によって財をなしたわけでもない。背後には国いちばんの山脈をそなえ、山から繋いだ地下水路の終着地一帯を耕地にし、畑のめぐみによって富み栄えている。     
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