我が姫殿下

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 地下水路には、どこからやってきたのか小魚が泳いでいることがある。それを揚げて食べるのはこどものころから好きだが、漁をするほどとれるわけではないのだ。数にも限りがある。たいてい、おとなの酒のつまみで終わってしまい、なかなか口には入らなかった。  シェリアの手が食卓の端で動いた。指をこすりあわせているかと思ったが、違った。指文字だ。アクァンタのことばを解するためにと、出立前に即席でリフィアも学ばされた。長い指はおなじことばを何度も刻んでいる。記憶を呼び覚ましながら目をこらしてみて、『リフィ』と、呼ばれていることに気づく。 「……ですから、お食事のあとはすぐにお支度を済ませ、長老宅へお邪魔する手はずと」  ズル・オムドが本日の予定を確かめるのを横目で見ながら、シェリアの声なき声を委細もらさずに聞きとろうと努める。 『あとで魚料理の店につれていってあげる』  リフィアもそうっと卓のうえに手首を置いて、たどたどしく返す。 『ほんと?』 『塩焼きもいいけど、あんかけも美味しいんだよ』  ブルクァの網目のむこうで、空色の瞳が笑っている気がする。 「俺は揚げ物がいちばんだと思いますが」 「えー、あんかけだよ! 揚げたのにあんかけも捨てがたいけ、ど……うわあ、やば」  反射的に言い返してしまったシェリアが、まちがいに勘づいてあわてて口をとざし、ブルクァのうえから両手で耳を覆う。     
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