我が姫殿下

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 ほんの一瞬、微笑が頬をよぎったが、気のせいとも思えるほどに短いあいだだった。彼はくるりと首をめぐらせ、今度はシェリアのほうをむいた。 『確認事項は聞くべきだった。謝りなさい。あなたはズル・オムドの仕事を妨げた』 「アクァンタ!」  咎める仲間の声に、彼は短く目配せだけを返し、シェリアをまなざす。 『あなたがお命じになったことだ』  いったい何を命じたのか。リフィアはふしぎに感じたが、問うことばが口から出なかった。シェリアには思うところがあったのだろう。しゅんとおとなしくなる。 「あたしが悪かった。ひどいお願いだとはいまも思ってる。でも、心変わりはないんだ」  従者がそろってうなずき、諒解を示す。シェリアはそれを見て、何かをごまかすように首をふった。すううっと大きく息を吸って、力強くこぶしをふりあげる。 「よぉし! 頑固なおじいちゃまとの会見はさっさと終えちゃおう! 魚だ、魚っ」  表情はブルクァに隠れて見えない。でも、自分だけ除け者になっているのははっきりとわかる。自分には関係ないのかもしれない。それならそうと、自分で判断したい。 (シェリアは自分さえわかっていればいいと思っているんだわ。わたしも知りたいのに)  リフィアはひざのうえで手を握る。たまに口で勝てても、結局優位なのは姉だ。周囲が従うのも姉のことばだ。同い年の双子なのに。     
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