旅立ちの理由

10/10
75人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
 頬に手をあてて、一気にまくしたてると、シェリアはこちらへと目を戻し、一瞬でいつもの快活な笑顔になった。てのひらでぽんぽんと肩をたたいて、明るくまっすぐな目でリフィアにうなずく。 「だいじょうぶ、竜がどうだこうだなんて、ほんとうの理由じゃ納得してもらえないだろうけど、そこはそれ、嘘も方便ってヤツよ。リフィアは腹芸苦手だもんね。だからさ、ナアムにだけ嘘ついてなよ。父上のほうはあたしがかわりに説得してきてあげる。うちの従者にそういうのが大得意なのがいるから、うまいこと口上を考えさせるから。平気平気、大船に乗ったつもりでいなよ」 「でも、悪いわ。わたしのことなのに」  そんなことはないのだと、ひらひらっと手を振って否定して、シェリアはいたずらっぽく片目をつぶってみせた。 「あたしだってタキタに行きたいの! だってさ、竜だよ? 神様なんだよ? 見てみたいに決まってるじゃんっ」  ちょっとそこまでお散歩に、というくらいの軽いノリで言われたせいだった。そのときの自分は、『竜に会いに行く』というのがたいへんな旅路であるのをすっかり失念して、幼い子どものようにはしゃいでしまっていたのである。  かくして、リフィアは姉に押し切られるまま、タキタへの旅に出ることとなったのだ。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!