竜殺しの少年

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 会見のあとの魚料理は、明日以降におあずけとなった。長老がことのほかクトゥのふたりの娘をお気に召したせいだ。おかげでこのとおり、望まぬ宴席へと着く羽目となってしまっている。  筋ばった痩せぎすのからだは年齢のせいだろう。齢八十歳ともなれば、しかたのないことだ。部屋のろうそくのあかりのもと、老体は陰影を増し、恐ろしげですらある。だが、タキタ周辺を治める大部族メアの長老のひとりだとは、外見からは想像もつかない。見た目にはいかにも好々爺と言ったふうで、力づよさとは無縁そうである。さきほど、宴の席への移動中に、そのようにこそりと耳打ったところ、シェリアは苦笑いで肩をすくめた。  返答はない。任せたとばかりにそのまま自分に投げられた視線に気がついて、ズル・オムドは嘆息した。もれ聞こえていたのだろう、酒宴の支度の喧噪に紛れて、小さくささやいてよこした。 「『長老』とは姫殿下同様、ひとを使う側なのですよ。権力者は、自分自身では何も動かなくていい。たとえば、今回の竜のうわさも、目線を換えれば示威行為でしょう。メア族には竜神を斃す戦士がいる。となれば、他族も生半可な覚悟ではメアの地を襲撃できなくなります」     
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