旅立ちの理由

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旅立ちの理由

 シェリアがいきなり部屋に飛びこんできたのは、一週間前の昼だった。  クトゥの村は静かだ。聞こえてくるのは働くひとびとの足音、手仕事の音。荷車が収穫したばかりの小麦の重みで軋む。手桶の水が野菜の畑にまかれる。たまに、王都からの伝令の騎鳥が鳴く。ぱたぱた足踏みする。伝令は一晩歓待され、翌朝には帰っていく。  他の一族のことは知らない。だが、クトゥはたくさんの后妃を輩出した部族だ。古来、豊かな水を得ている。戦にも強い。だからどこにもこの土地を奪われずにいられる。大きいとは思わないが、強く誇り高いとは思う。  リフィアの一日は部屋のなかではじまり、部屋のなかで終わる。ときおり、父に呼ばれて居室にむかうこともあるが、用のある人間はみな、むこうからたずねてきてくれる。  いちばん多く来るのは、姉のシェリアだ。他の兄姉も昔はやってきていたが、一度だけちょっと眠たくてぐずったら、乳母が気を利かせて勝手に断るようになった。  毎度、兄や姉になにか当てこすられているのだとでも思ったのだ。そんなの、リフィアは気にしたこともない。自分が末子なのは厳然とした事実だ。だれにも動かしようがない。     
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