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イルマが掃除夫になった訳
「嘘、塩が変わっただけ?」
驚くリアに、イルマは微笑んだ。
「厨房のロー、戦争前は首都に自分の店を持ってた人なんだ」
「それがこんな所に。宝の持ち腐れだな」
上官の許可一つで届いた塩。イルマが直談判した翌日に届けられた。
「上官って意外と話が分かる人なんだな」
そう呟きながら窓の外を見るリア。景色は彼がここに来た日と何ら変わりない荒野。しかしその目は別のものを見ているように輝いていた。
「じゃ、俺行くわ」
「気をつけて」
巡回の時間だ。リアが肩に担いでいる銃を悲しげに見つめながら、イルマは彼の背中を見送った。
巡回用トラックは、今日も冷え冷えとして、氷のようで皮膚がくっつきそうだ。その荷台に乗り込もうとしたリアに、早足で近づいてきた上官が声を掛けた。
「952番」
「はい!」
慌てて敬礼をすると、彼はいつもよりもずっと冷たい瞳で睨んでくる。リアはその威圧感に後退りした。
「貴様に話がある。戻り次第俺の部屋に来い」
「……は、はい」
「それなりの覚悟をもって、来い」
「……は、い」
リアの首筋に汗が流れる。上官の背中が小さくなっていく。リアは促されて荷台に乗った。トラックは今日も国境沿いの川沿いに向けて出発した。
一部始終を見ていた他の兵士たちは複雑そうな表情をキャップで隠し、俯いている。真っ青になって銃を抱きしめながら座っているリアに声をかける者はいなかった。
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