人間

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人間

リアたちが国境の駐屯地に来てから一週間。訓練は厳しく、国境の巡回警備も砂埃の中何度も警告発砲した。この短い期間で、リアはもう三回ほど死ぬ思いをした。 バラックに住んでいるのは185人。決して多いとは言えない人数だ。 新入りとしてやってきた8人。実は手榴弾が投げ込まれて死んでしまった隊員のために補充された。それが分かったのは、先日死んだ3人の補充でまた新たな3人がやってきたからだ。 仲間が死ぬと、ブーツや武器だけが人数分帰ってくる。リアはその場面に居合わせないように、または自分が屍にならないように願うばかりだった。 生きていたとしてもここから逃れる術はない。 この戦争が終わらない限りは。 心が奪われていく。極限状態の中でやるべきことは決まっており、それを機械的にこなすようになっていた。 それでもイルマという掃除夫を見かけると、なぜか心が和んだ。彼はいつも真面目に床や便器を掃除し、ピカピカ輝くほどきれいにしていた。 一度、ベッドのシーツから太陽の匂いがしたことがある。気持ち良かった。イルマが、砂埃が付かないように、シーツにカバーをかけて干してくれたようだ。 目が合うと優しく微笑んでくれる。ここには異質の存在である彼。蝋人形のように感情が抜け落ちた多くの兵士たちは、時折イルマに出会うと、話をすることができなくてもジッと彼を見つめていた。 そんな(イルマ)が、上官と話しているのを偶然リアは見かけた。
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