美波里の実家事情

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ふん。島二郎は何処吹く風だった。島二郎には希望の光が見えていた。どこまでも深い奈落の底からであっても、真っ直ぐ差し込む一縷の光が見えていたのだ。 最初の一投で、最早勝敗は決していた。どれ程見苦しくてもいい。時間を稼ぐ。それだけが、島二郎のとれる冴えたやり方と信じていた。 「アーアアアー、ドボンドボボンアーホマニラー、スートミレドー、ヌアーンコカヌー!アーモッカチ!アーモッカチ!ホーウ!」 「ヌアンコ・カヌ?!島二郎!貴方それでいいの?!」 島二郎はマグマっていた。ただの気味の悪いコバイア星人に過ぎなかった。 対外的に問題があるということで翡鳥達は車から降りることが禁じられていた。あくまでただの荷物として輸送されていた。 「逃げる巫女はクソ巫女だあああああああ!逃げねえ奴は訓練されたクソ巫女だあああああああ!私は死の運び屋デスミュールだこらあああああああ!」 御迦園光耀は狂乱して弾無しのM60を振り回している部下を、生かすべきか消すべきかを真剣に悩んでいた。 「突入するのはいいが。翡鳥。相手は西陣真紀子だ。彼女が誰なのか知っているんだろう?前期の女性チャンプ、吉田美琴プロを圧倒的実力で完封した驚異の新人女王だ。現役のプロでも数少ないD1出場が決まってる。お前、島二郎を彼女から助ける自信があるのか?」 翡鳥はやはり言葉を発しなかった。沈思黙考の末、翡鳥ははっきりと言葉を口にした。 「助ける?馬鹿を言うな。あいつは弁天堂高校投箭道部のメンバーだ。迎えに行くだけだ」 ああ。ああそうか。青紫郎は嘆息した。 捻くれ者の妹を普通に心配する兄の姿があった。
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