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花火も終わり、子供達を寝かしつけてからは大人の時間。
焚き火の炎に松の枯れ枝をくべると、松葉が一瞬で焼けた鉄串のように真っ赤に燃えた。その様を、ただじっと見つめる。
日付が変わった頃に、少しばかりの雨も降り始めた。焔の勢いは安定していて、小雨ならばなんの問題もない。しかし、人間の体は少しばかり冷えてきた。
「ちょっと、風呂に行ってくる」
そう仲間に伝えた時には、風呂の時間は過ぎていた。
「もう時間過ぎてるぞ?」
「閉まってたなら諦めて帰ってくるよ。他の客は誰もいないし、まだ入れそうなら、体が温まったらすぐ出てくる」
タオルと、コテージに備え付けの懐中電灯を持ち、小雨の音に耳を傾けながら未舗装の林道を歩く。遠くでバサバサと森が揺れた。
人気のない道。ふと思い出したように、懐中電灯で木々の茂る森を照らしてみる。
暗闇に濃く潜む気配が、気になった。
懐中電灯の光に野生動物の目玉でも光れば、まだ怖くなかっただろう。自然の作り出す闇は、人間が作り出した光をいとも簡単に飲み込んでしまう。光の筋に映るのは氷雨ばかり。
やはり戻ろうか。
いや、今更引き返すには遅すぎる程の距離を歩いてしまった。数メートル先に、風呂場がぼんやりと見え、湧き出る湯の音も聞こえくる。
結局立ち止まる事なく、その音に引き込まれるように、風呂場へと足を進めた。
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