コテージにて

2/6
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 花火も終わり、子供達を寝かしつけてからは大人の時間。  焚き火の炎に松の枯れ枝をくべると、松葉が一瞬で焼けた鉄串のように真っ赤に燃えた。その様を、ただじっと見つめる。  日付が変わった頃に、少しばかりの雨も降り始めた。焔の勢いは安定していて、小雨ならばなんの問題もない。しかし、人間の体は少しばかり冷えてきた。 「ちょっと、風呂に行ってくる」  そう仲間に伝えた時には、風呂の時間は過ぎていた。 「もう時間過ぎてるぞ?」 「閉まってたなら諦めて帰ってくるよ。他の客は誰もいないし、まだ入れそうなら、体が温まったらすぐ出てくる」  タオルと、コテージに備え付けの懐中電灯を持ち、小雨の音に耳を傾けながら未舗装の林道を歩く。遠くでバサバサと森が揺れた。  人気(ひとけ)のない道。ふと思い出したように、懐中電灯で木々の茂る森を照らしてみる。  暗闇に濃く潜む気配が、気になった。  懐中電灯の光に野生動物の目玉でも光れば、まだ怖くなかっただろう。自然の作り出す闇は、人間が作り出した光をいとも簡単に飲み込んでしまう。光の筋に映るのは氷雨ばかり。  やはり戻ろうか。  いや、今更引き返すには遅すぎる程の距離を歩いてしまった。数メートル先に、風呂場がぼんやりと見え、湧き出る湯の音も聞こえくる。  結局立ち止まる事なく、その音に引き込まれるように、風呂場へと足を進めた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!