コテージにて

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 温泉の入り口は施錠されていなかった。  手探りでスイッチをつけると、電灯は2、3度点滅してから、薄暗く脱衣所を照らした。壁には温泉の効能と注意事項の書かれた紙。ずっと貼りっぱなしなのか変色している。  天井付近にある小窓が、開けっ放しになっている。湿気を逃す為だろうが、裏山の木の葉がざわめくたび、誰かに見られている錯覚におちいる。  何度も見上げそうになるのをグッと堪え、風呂場へ続くガラスの引き戸を開けると、かけっぱなしだったメガネが一気に曇る。浴場は誰も居ない。当たり前だ。泊まりの客は私達のみ。酒をしこたま飲んだ仲間たちは風呂は朝に入ると言っていた。  温泉はちょうど良い湯加減。アルカリ性の湯は体を摩るとヌルヌルとして、肌に良さげだ。はぁ、と肩までどっぷり浸かり、目を閉じて息を吐いた。  湯から出ている顔だけひんやりとする。その温度差も気持ちがいい。  湯に溶けそうな心地だ。しかし、その気持ちはすぐに吹っ飛んだ。湯気の向こうに何かの気配を感じたのだ。       
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