私の愛

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私の愛

彼女は私の言葉を聞いて急に青ざめた。不甲斐ない私は彼女を慰める言葉を持たない。いや、私が彼女を傷つけたのだから慰めようなど烏滸がましいかもしれない。 でも放っておくことなどできず、私はそっと彼女を抱擁する。 すると彼女はいきなり満面の笑みを浮かべた。 同時に腹部に鋭い痛みを感じた。 激痛が走る腹部を見ると、ナイフが刺さっていた。シャツはどす黒い血の色に染まっていた。 意識は薄れながらも、瞳は自然と彼女の顔を捉えていた。恐ろしいことに彼女は無邪気な天使のような顔をしていた。そして私の耳元で囁く。 「先生の返事は分かっていました。でも私はどうしても先生が欲しいの」 「だからこうするしかなかったの…先生、痛いでしょう?ごめんね。でも私も先生を見るたびに心臓を針でチクチクと刺されるような痛みに、声にならない悲鳴をあげてたから、これでおあいこだね♪」 「私は貴女の想いを受け入れられないから死ぬのですね…ここまで大きな愛を注いでもらえて幸せですよ」 実は私も彼女のことを、1人の女性として愛していた。だけど既に私の子供を孕んでいる女性がいた。別に彼女のことが嫌いなわけではない。孕んでいる子供が疎ましい訳でもない。ただその女性には、私が命を懸けて愛情を与える義理は感じなかった。 でも彼女は違う。彼女の為なら命さえ惜しくないと思っていた。 今にも死に絶えそうな肉体の僅かに残された気力で、私は彼女をもう一度力強く抱擁する。 そして彼女にそっと耳打ち。 「貴女をずっと愛していましたよ…この結末にも満足しています。」 「ありがとう、先生…私もすぐに追いかけるからね!」 私の瞼は、盛大な血飛沫が舞ったのを見て、ゆっくり閉じた。
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