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目の前が真っ赤になり、次に暗転して――聖はその場に昏倒した。
◇
後で知った事だが。
結果として、この事は聖の目論見通りの成り行きとなった。
聖は、表向きは天黄組組長、天黄正弘の愛人と目されていたのだが――――それを強引に、青菱が天黄の主筋であるという事を理由に、青菱本家の『応援要員』という名目を付けて史郎が囲い込んでいたのである。
つまり、あくまで聖は応援要員であって、未だ外様の組員であるワケだ。
その組員に対し暴行を加え、ろっ骨を折って全治一ヵ月の重傷を負わせたとあっては、さすがに天黄も黙ってはいられない。
将来は経済ヤクザとして動いてもらう為に、大学に通わせて大切に育てていたウチの組員に、何て事をしてくれる!!
と、そういう大義名分が出来る。
天黄はその言い分を盾に、青菱組長へと猛抗議を申し入れ…………結果として、史郎に預けられていた聖の身柄は、天黄へと返される事となった。
これで、最初に聖が描いた通りの道筋となったワケである。
「――――まったく、無茶ぁしやがってよぉ……こちとら肝が冷えたぜぃ」
天黄正弘はそう嘆息すると、平身低頭したままの聖を見遣った。
「顔上げな。それに、畳じゃあ今のお前には辛すぎんなぁ……骨折したのはマジなんだ。さぞや痛ぇだろう?隣の応接間に移るか」
「すみません、親分……」
と、聖は悄然とした様子で再び頭を下げた。
しかし、その動作が体に障ったのか、聖は『うっ』と呻き声を上げる。
「いい、いい。お前はこのまま、前まで使っていた離れの部屋に戻りやがれ。それから――大学の方も、しばらく休学しな」
「いえ、それは――」
「身体がそれじゃあ、キツイだろうが? 」
そう言うと、正弘はポンポンと聖の頭を叩いた。
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