2 ~His true intention~

5/7
前へ
/78ページ
次へ
 そして、小さくその耳元で呟く。 「――――小僧。おめぇは行くゆくは、極道は抜けてぇんだろう? だったらまず、ガキの為にも身体を治してから本気で勉学に集中しねぇとな」 「親分……」  聖は目頭が熱くなるのを感じ、手の甲で涙を(ぬぐ)った。  元々は、この人(天黄正弘)に命を預けて極道世界で伸し上がろうと思っていた。  その時の決意は、本物だった。  しかし、そんな聖の目の前に、二年前――――天使が現われた。  それは、聖が12の時に契った女教師が産んだ子供だった。  名前を、ユウという。  愛しく可愛い、聖の子供……大切な命だ。  この子の為にも、極道からは足を洗わなければ思ったが――時すでに遅く、その時の聖は、そう簡単には極道から抜ける事は出来なくなっていた。  それまでの組のゴタゴタが重なり、正弘自体の勢力が落ちていた時期だ。  青菱傘下に着いた事で、他の勢力圏を追い出す事は出来たが……逆に、シノギは厳しくなった。(※『ワルモノ』をご覧ください)  青菱は勿論、それ以外から借り入れた分もあり、天黄は上野にあった土地の幾つかを手放さなければならなくなった程だ。  お陰で、天黄組の力はかなり低下してしまっていた。  聖も奔走して、どうにか組の為にと、それまで避け続けていた色事にも手を出し始め――――そんな折に、青菱の若頭である青菱史郎に見初められてしまったのだ。  この世界、上に着いてしまった組の若頭に、その身を差し出せと言われたら従うしかない。  聖は嫌々ながら、天黄組の為に仕方なく青菱へと『応援要員』という名目で出向した。 (こんな可愛げのない野郎なんざ、すぐにお役御免になると思っていたんだが……)  骨折の痛みに顔をしかめながら、聖は忌々しそうに舌打ちをした。 「……正直言って、一年も若頭に拘束されるとは思ってませんでした。おかげで、せっかく親分の計らいで通う事になった大学の方も遅れちまってます。これ以上は、親分に迷惑は掛けられません。身体は――痛み止めを飲みながら、騙しだましで行きますよ」 「おめぇはなぁ……」
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

276人が本棚に入れています
本棚に追加