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嘆息する正弘であったが、その時、ドンドンと戸が叩かれた。
「なんでぃ! 」
「親分、その――――青菱の若頭が直々にいらっしゃいました。どうしやしょう? 」
舎弟の言葉に、正弘は驚きの声を上げた。
「なにぃ!? 用件はなんでぃ? 」
「あの……御堂の見舞いだそうです。とりあえず、別棟の応接間にお通ししやしたが」
チッと舌打ちをして、正弘は聖を見遣る。
「――――おめぇ、厄介な野郎に目ぇつけられちまったな」
「すみません、親分」
聖はそう言うと、再び頭を下げた。
「……じつは、オレ……倒れる前に野郎の腹に一発入れちまったから……それで相当恨みを買ったんだと思います。きっと、難癖付けに来たに違いありません」
「そうかい?――――ちょいと違うと思うが……」
「もしも親分にまで被害が及ぶようなら、刺し違えてでも野郎をぶっ殺します」
「おいおい……」
正弘は少々呆れながら、「よいしょ」と立ち上がった。
「物騒な事は言うなぃ。とにかく、おめぇは重傷の身なんだ。離れの部屋はそのままにしてあるから、おめぇはしばらくそこで養生しな」
そう言うと、正弘は聖の返事を待たずに、廊下に控えていた舎弟へ「聖を離れまで介助してやりな」と命令した。
◇
「オレは、聖の顔を見に来たんだが」
不機嫌な様子で鬱蒼と呟く史郎に対し、これまた剣呑な様子で正弘は口を開いた。
「生憎だが、あの野郎は、若頭のおいたの所為でまだ床から起き上がれませんや。今日の所はお引き取りくだせぇ」
「ほぉ? それならますます心配ってもんだ。顔を見ない事には、オレも安心できんな」
史郎の言葉に、後ろに控えていた青菱組の男達がスッと行動を起こそうとする。
だが、正弘は意に介さない様子でホッホと笑った。
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