3 ~The bad situation~

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 その問い掛けに、その場にいた全員が押し黙った。  聖はこの時、まだ21になったばかりの若造だ。  しかし15の時から本家に住み込みで研鑽を積んでおり、組の中では中堅クラスの構成員である。  組長である天黄正弘が風呂に入る際は、その背中を流す任へ当たる程の親密な仲であった。一時は、跡取りのいない正弘によって、天黄組の後継者に指名されるとまで思われていた男である。  それだけに、聖の存在を知っている者は多い。  そして彼が、どれだけ美しく麗しいのか――――当然それは有名な話として、広く伝わっている。  親分の手前、聖に手を出す事など御法度であるが、密かに垂涎の的として人気であった。  その聖に、青菱の若頭が熱を上げて強引に囲おうとしている……その話もまた、広く伝わっている事実である。  実際、青菱史郎は『応援要員』という苦しい名目を強引に押し通し、一年もの間、聖をつい先日まで囲っていた。  以前は、とてつもなく美しいものの、剃刀のように鋭い険が前面に出ていた聖である。  それが……この一年で凄艶なばかりに艶めき、誰もが劣情を覚えずにはいられぬ程に官能的になった。  もしも婀娜(あだ)な仕草で強請(ねだ)られたら、大抵の男は抗う事は出来ぬであろう。  数千万のカネと引き換えにその身柄を要求されても、何らオカシイとは思わない。  それだけ聖は、妖婦めいた魅力を開花させていた。 「親分。その……オレも親分の顔があるから強く言う事は出来ねぇが、今回ばかりは折れてくれませんか? 」 「そんな事、オレが承知するとでも思ってんのか!? いい加減に黙りやがれぃ! 」  正弘はそう言うと、手にしていたキセルで座卓をパンっと叩いた。 「今度ふざけた事言いやがったら、脳天に叩き込むぞ!! 」  その剣幕に及び腰になりながらも、幹部たちは尚も言い募る。 「しかしですぜ、他に手はありませんやね。ウチの組はもう、おけらでさぁ」  これに、また正弘は何か言い掛けたが――……。 「……親分の気持ちは、有難く思います」
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