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その麗しい妖鬼のような聖と遂に心を通わせ、初めて抱いた時の感動は今も忘れていない。
(※詳しくは『ナラズモノ』をご覧ください)
傾国の美女とは、よく言ったものだ。
史郎を魅了した聖はその後、史郎の義兄弟も虜にし、史郎の父までを惑わせた。
本人の望む望まないを抜きにして、やはり彼は美し過ぎる。
誰もが、魅惑的なその肉体を一度抱こうものなら、その甘い毒に侵され中毒にかかってしまい破滅へと歩き出す。
あの傾国を必ずや己の物にしようと欲望を剥き出しにして、躍起になる。
そうして聖の歓心を得る為に、いったいどれほどの男が凋落した事か。
史郎が知るだけで、四人もいる。
調べれば、もっと出てくるだろう。
しかし、自分が五十路に入ったように、その聖も今は四十路に入っている筈だ。
そろそろ、さすがに落ち着いた頃だろうか?
「――――おい」
「へい? 」
「あいつには、今は誰か伴侶がいるのか? 」
「…………いえ、いないようです」
「そうか……それじゃあ――」
「しかしお仕事の方は、相変わらず忙しいようです。国内は勿論、海外からお忍びで来る要人の接待も引っ切り無しのようですよ。お陰で、芸能社の業績は上々らしいですが」
その補足に、史郎は渋面になった。
「だが、あいつもとっくに四十を超えてるだろう? 盛りも過ぎた筈だ。そうそう、アッチの話も無いんじゃねぇか? 」
「――――で、あればいいですね」
「おい」
「組長は離れていたんで知らねぇでしょうが、あのお人はとんでもないバケモノですよ」
ふぅと嘆息し、舎弟は言う。
「若い頃以上に、増々男衆を惹き付けて次々と狂わせていますよ。しかし、カタギになっちまいましたからねぇ。極道連中はなかなか手を出せなくて、地団駄を踏んでます」
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