2 ~His true intention~

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「若頭、一つ忘れちゃあいませんかい? 」 「何がだ」 「あいつぁ、オレのイロですぜぃ? 可愛いマブを、いつまでも若頭に貸してやる訳にゃあ行きませんや。一年も好きに抱かせてやったんですから、もう充分じゃあ御座いませんかぃ? それに――――聖を大学に通わせて、学を身に付けさせようとしていたこっちの計画も、大分ずれ込んで迷惑千万なんですがねぇ」  正弘は、そう直球を放った。  イロ(愛人)と言っても、実際は大きく違うのだが……周囲はそうは思っていない。  正弘は聖に目を掛けて特に可愛がっていたし、聖の方も、普段の険を一切見せずに正弘の前だけではとても素直だった。  その様子を見て、誰もが、聖は正弘のイロだと信じ込んでいる。  今回は、それを逆手にとっての攻勢だ。  余裕綽々、正弘は上目遣いになって、史郎をねめつける。 「まさか、若頭。そういつまでもあいつを自由に出来ると思ってやしませんよね? 」 「……」  正弘の言葉に、史郎は無言になった。  事実、他の家の愛人を、そう何年も自由に出来るワケが無い。  史郎は聖を『応援要員』という苦しい名目で、強引に青菱に招き入れていたが――今回彼に重傷を負わせたことで、それももう効力を失っていた。  黙り込んだ史郎に対し、正弘はパンパンと手を叩くと、声を張り上げた。 「さぁ、お客人はお帰りだぃ! おめぇら、玄関先まで送ってやりなっ」 「へいっ! 」  正弘の号令一過、天黄の組員たちは慇懃無礼に、青菱の男達を玄関まで追い遣った。  史郎は無言のまま正弘を鋭く一瞥すると、戸惑う舎弟たちを引き連れて大人しく帰って行った。  走り去る黒塗りの車を見遣りながら、正弘は一先ず安堵の息を吐く。 「まぁったく、ガキがいきりやがって」  ようやく青菱史郎も諦めてくれたようだ。さぁて、これで聖も安泰か。 ――――そう思った正弘であったが、数日後、その自分の考えが甘かったことに直面したのであった。
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