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一度だけでもいいから繋ぎを取ってくれと、縁のある筋から青菱へ話が来た時もあったが…………それは口に出さず、舎弟は続ける。
「まぁ、表立っては芸能社に関係のある人物との交流を優先しているようですね。自社が抱える俳優の仕事絡みは勿論、外国でも活躍している歌手の息子さんの件もあるんで、そっちはよくよく厳選して付き合う相手を選んでいるようです」
「――」
無言になる史郎であったが、彼がいったい何を訊きたいのかを察した舎弟は、ボソッと補足する。
「――――ご安心ください。本命の相手は、未だいないようです。…………今も独りですよ、あの人は」
「……そうか……」
少しだけ安堵したような声を漏らして、史郎は背凭れへ深く座り直した。
その様子をミラーでチラリと確認すると、舎弟は再び口を開く。
「じゃあ、直接本部の方へ車を向かわせるでいいですね? 」
「ああ、そうしてくれ」
そう返事をかえしつつ、もう史郎は、その後の事を考えていた。
遠い昔、一瞬で己の心を捉えた男の事を。
(――――まだ、独りなのか…………)
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