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トロリと内股を伝い落ちる白濁には構わずに、着て来たコートを纏う聖。
紅い花の咲くその背中に向かい、史郎は声を掛けた。
「……聖」
「――」
「行くな」
短く、熱い言葉。
それを背中越しに聞きながら、振り返らずに聖は微笑した。
「…………もう、オレとあんたとじゃあ生きる世界が違う」
疲労の色を滲ませながら、聖はそう告げる。
今はもう、聖には聖なりの人生がある。
例えそれが、夢に見ていた我が子との暖かい家庭ではなくても。
――――ジュピタープロを買収して、一国一城の主として本物のトップに立ったのだ。多くの従業員を抱える、責任のある立場として生きなければならない。
もう、反社会的勢力である青菱とは付き合えない。
史郎とは、これ以上歩むことは出来ない…………。
「あんたとは、ここでお別れだ」
「お前……オレ無しで満足できると思っているのか? 」
この問いかけに、聖は苦笑した。
「なんだ、すごい自信だな」
「そりゃ、そうだろう」
その身体の全てのツボを心得て、これだけ絶頂に上らせる事の出来る男が、自分以外にいるとは思えない。
「お前をオンナにしたのは、いったい誰だと思っているんだ? 」
「……ふふ、そうだな………」
肯定するが、しかし振り返らずに聖は言う。
「オレ達の道は一時的に交差したが、この先は逆方向だ。だって、あんた……オレの為に極道を辞める事はできねぇだろう? 」
「――」
無言になる史郎に一瞬だけ視線を投げると、聖は寂しそうに微笑んだ。
「さようならだ、史郎」
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