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「私は、必ず来る死を待ってるのなんて怖いんだよ…、みなとくんはどう?」
色羽ほのほは、1時50分の位置で正しく握ったハンドルを不慣れな様子で制御しながら、目の前に広がる今にも唸り声を上げ、落ちてきそうな鈍色の空を見ていた。
舗装されていない土道をボクとほのほを乗せた小さな車は、目的地へ向かって進んでいく。
すり減ったタイヤが土石を踏む度にガタガタと車体は揺れた。
不慣れなハンドル捌きと違って、正しく制御された彼女の横顔からは感情が覗けない。
「…だから、迎えに行くの?」
ボクはほのほと同じように進行方向へ視線を移し問い掛けた。
「んー、少し違うかなぁ。」
ほのほは左手をハンドルから離し、指で顎先を撫でる。
1時50分という手綱を失った車体は少し蛇行したが、ほのほの左手がそれを上手くコントロールした。
「私は死神と遊びに行くの、昔…、ずっと昔にそう約束したから。」
横目で見た彼女の表情は満足そうに思えた、ボクは5,6センチだけ窓を開けて外の空気を車内に招き入れた。
ボクの中に充満していくほのほを逃がしたかったからかもしれない。
彼女の嘘は安っぽいワインとよく似ている。
香りがなく、口に入れるとベタベタと甘く、そして後味がない。
そのクセ次の日になると胸の辺りをモヤモヤさせるのだ。
「その約束ってボクと会う前にしたの?」
「おやおや、みなとくん。おもちでも焼きましたかぁ?」
「…違う。」
返答に困ると年上の余裕といった素振りで、お茶を濁すのはほのほの悪い癖だ。
追求してもいいが、どうせボロが出て支離滅裂になるだけなので、ボクは黙って窓の外の流れ行く景色を眺めた。
傷付いたガードレール、その向こう側の朽ち果てた廃屋。草木は風に揺れている。通り過ぎるボクらに手を振るように。
ほのほの運転する車は時計の針のようにどんどんと進んでいく。
目的地である死神が遊ぶあの岬へと。
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