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ボクの中に居座るほのほとの一番古い記憶は、ボクが5歳の頃の事。
3つ年上のほのほは受け答えがしっかりとしていて面倒見の良い、いわゆるよく出来た子供だった。
同じマンションの隣同士で親同士が仲が良かった為、ボクらはともに居る事が多く、兄弟の居ないボクは彼女を本当の姉のように慕っていた。
ほのほは年相応に不器用なボクの世話を、まるで実の姉のように甲斐甲斐しくしてくれた。
親達の目には本当に仲の良い理想の姉弟のように映っていたのだろう。
「ほのほちゃんとみなとは本当の姉弟みたいでいいわね~。」
「ほのほ、みーくんのこと大好きだもん!」
ボクの親の他愛ない一言に彼女は屈託のない笑顔で応じ、ボクの手をひいてそのままボクの身体を抱き寄せた。
「…みーくんはほのほのだからね。」
ボクにしか聞こえないトーンで放たれたその言葉を、その時に始めて感じた優しいお姉ちゃんじゃないほのほを今でも鮮明に覚えている。
その3日後にほのほの両親が死んだ。
交通事故だったらしい。
葬式の最中、泣き喚くでもなく押し黙ってただボクの右手を彼女は握った。
何かを閉じ込めるようにずっと握っていた。
ずっと握り締めていた。
葬式を終えて幾日も経たないうちにほのほの引越し先が決まり、理解が追いつかないままにボクらの別れは決まった。
違う街の祖父母の家に住む事になった事を少し後に聞いた。
引越しの朝、はじめて泣き喚き取り乱すほのほを見た。
祖父母やボクの両親になだめられても泣き止まず、ボクの名を何度も叫んでいた。
そんな彼女を見て、熱くなる咽の奥をボクは何度も握り拳で叩いた。それでもその熱が冷める事はなかった。
去り行くほのほを乗せた車を滲む視界でいつまでも見続けていた。
残った物は、哀しみ、苦しみ、戸惑い、そして右手の中にあるほのほからの手紙。
「しにがみがあそびにきた。」
それがボクの中に居るほのほとの一番古い記憶。
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