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ほのほとの別れは確かに幼少期のボクの心に深く突き刺さりはしたが、それでも過ぎ行く時間や流れる日常に研磨されるように擦り消え、積み重なる思い出の下敷きになって記憶の奥へとしまい込まれる。
前を通る度に後ろ髪を引かれるように眺めた、もぬけの空となっていた隣の部屋も数ヶ月も経てば埋まり、互いに行き来した思い出の場所も誰かの日常になった。
視線が高くなる度に、服を新しく買い代える度に、ボクの中にあったほのほの存在は小さくなっていった。
小学校に通い、友達を作り、流行のゲームにハマリ、イタズラをして、テストで悪い点数を取って怒られる。
手取り足取り面倒を見てくれていたほのほが居なくても、成立する世界の中をボクは生きていた。
「みーくん、見ぃつけた!」
3月の終わり、沈みかけた太陽が空を赤く、真っ赤に染めている。吹き抜ける風はまだ冷たく、露出していた顔や手に容赦なく突き刺さる。
友達と別れた家路、マンションのエントランスの前に制服にマフラー姿の女の人が居た。
風に煽られたマフラーとセミロングの髪がなびき、茜色の空と混じり合ってキラキラと輝いている。
ボクより少しだけ背の高い、知らないはずの女の人。
だけど、「みーくん」という単語がボクの中に溶け、心臓の鼓動を大きく揺さ振った。
「…ほのほ…、お姉ちゃん?」
「せーかいっ!」
スルリと零れたボクの返答にほのほは歯を剥き出して笑った。顔つきが変わり大人びていたが、それはボクの記憶の奥底に居たほのほの笑顔だった。
「なんで?」
「どうしてココに?」
そんな疑問は勿論あったが、言葉よりも先に身体が彼女を求め、理性が動くより前にほのほに抱きついていた。
失くしていたはずの宝物を抱き締めるように。
「ちょっ、しばらく見ない間にみーくんは大胆になったんだねぇ。」
お姉さん口調で嗜めるほのほに構わず、ボクは5年ぶりに会うほのほにすがり付いていた。
泣く事が正しいとは思わない、もっと掛ける言葉があったかもしれない、だけどその全てをかなぐり捨てて、ボクはほのほの胸の中で泣きじゃくっていた。
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