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どれほど時間が過ぎただろう?
沈みかけていた真っ赤な明かりは消え去り、頭の上には暗闇が漂っている。暗くなる前に帰って来いという約束を思い出しながら鼻をすすった。
エントランスの脇の花壇の端にほのほに寄り添って腰掛けている。ボクが泣き止むまでの間、彼女は何も言わずにボクの涙を受け止めてくれていた。
「…寒くないかな?」
心地よい沈黙を破り、ほのほが問い掛ける。
彼女に触れている右側の暖かさが、触れていない反対側の寒さを際立たせていたが、
「…大丈夫。」
子供なりに育っていた男心で強がって見せた。
「それより、どうして急に来たの?」
「みーくんに一番に見て欲しかっただ、私の制服姿。」
「…ボクに?」
「そう、キミにだ。」
姿勢を正し、パッと両手を広げるほのほの胸元には控えめな桃色のリボン。真新しいブレザーは少し大きく、馴染んでいない衣の強張りと着心地の悪さが見て取れた。
つかの間の鑑賞会を終え、ほのほはボクの膝に手を置き「似合うかな?」と顔を寄せてくる。彼女の吐いた生温い吐息が鼻先に触れ、今更ながら女性的に成長し始めている彼女との距離に恥かしさを覚え、目を伏せた。
「ねぇ、みーくん知ってる?」
「ん?」
「神様は人を創って時間を与えた、だけど人が神になる事を恐れて、命と言う時間に制限を付けたんだ。」
「…何の話?」
唐突に語りだしたほのほの話を理解するには幼すぎた…、いや、例え大人であっても急にこんな話をされたら理解が追いつかないだろう。
ボクは伏せていた目を上げて、ほのほの顔を覗いた。
エントランスの照明に照らされた彼女の表情は、凛としてとても美しく思えた。
「死を司る神様のお話。私ね…、みーくん。私…、死神に愛されてるみたいなんだよ。」
嘘を吐いてるでも、からかう様子もなく、変わらない美しい表情のままほのほは告げる。
「だけど残念だよね、私はみーくんが一番好きなのにね。」
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