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道行2
「平気なんかじゃありません。だけど、華南のお城に着くまでは我慢しましょう、ね?」
子どもっぽい三宮の不満の声に、キサヤが宥めるようとするが。
「嫌だ」
「索冥さまっ」
まったくもうっ……。どう言えば分かってもらえるのかと思案する間も与えられず、三宮の手がキサヤの顔を挟んで自分に向ける。綺麗な銀の瞳に見つめられるとキサヤはだめだと思いつつも反抗できない。
皇族だけが持つと言われる銀色の瞳。その神秘さを保つためにも魔族の血は必要だった。繰り返し取り込まれる魔族の血が皇族の証の故だとしたら皮肉なものといえる。
今や、魔族という人間の亜種は存在を知られてはならない半獣の化け物だ。絶滅しかかっている自分たちのことを考えるとキサヤの心は重くなってしまう。
「キサ、私を前にして何他のことを考えてるの?」
「へ? あ……すみません……って、ええ?」
知らぬ間にキサヤは三宮の膝の上にのっていたのだ。
「キサは南に下ってからやけに冷たい」
三宮の膝の上に横抱きにされてぎゅっとしがみ付かれた。それは恋人というよりは子どもみたいな抱擁。
こうなってしまったら正攻法では説得できない。ここで大人の対応を諭してしまうとますます三宮とこじれることになる。三宮にだって自分が大人げないことをしているのは百も承知なのだから。
「索冥さま、わたしだって我慢してるんですって」
膝の上に乗っている姿勢のまま、三宮の肩口にキサヤは自分の頭をのせて甘えた声を出す。片手で三宮の後頭部を撫でつけながらもう片方は背中に回して袍を強く握った。
「キサ、好きだ」
「索冥さま」
よしよしと背中を擦っていたらぱっと三宮の顔が離れた。
「じゃ、口付けだけ。それならいいだろ?」
名案だとばかりに三宮の声が弾むが、三宮の「口付けだけ」くらい油断ならないものは無い。
「だめですって」
そうは言うが、三宮が苛々しているのは昨晩の出来事も影響していることは間違い無い。昨日は南で一番の街であるキサヤの故郷に泊まったのだ。
今の政庁にとっての南の端。この先は都でも未開の土地だと地図さえない。国の威光が届く最南の土地。
そこでの宿泊は当然キサヤの実家になり、当主からもてなしを受けた。
当主の凜 晦冥は五十がらみのがっしりした男で横に太った妻と二十四、五の当主に良く似た跡取りが平服して三宮らを迎えた。
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