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道行3
「うわっ、キサとまったく似て無いな」
思わず、三宮が呟いてしまうほどキサヤは父親にも兄にも似ていなかった。この国でごつい顔立ちなど珍しくない。丸顔が基本なのだ。
だから尚の事、キサヤのように細立ちで繊細な容姿はきっと目立って仕方無かったろう。
大仰な挨拶の後にある宴は近隣からの豪族らをも集めて大変なにぎわいになっていた。当主の凜にしてみれば、皇族とつながりがあるのをこの際見せつけておきたいところでもあるし、ほかの豪族からすれば皇族の顔を直接こんなに間近で見ることなど一生ないと思っていたことから大挙して押しかけている。屋敷に入りきらない者まで出てくる始末だった。
「ちょっと外していいですか」
「大丈夫か、キサ。リュウをつける?」
小さくキサヤは首を横に振った。
「実家ですから屋敷のことはよく存じてますので一人で大丈夫です。控えの部屋で休んでいますから」
自分がついて行きたいと三宮の顔が訴えているがそんな事ができないのも二人とも承知していた。
心配顔の三宮に見送られて、普段から酒にはめっぽう弱いキサヤは途中で宴を下がり来客用にしつらえてあった三宮の寝室の隣室に入った。
知ってはいても母屋にはあまり縁が無かったし、父も母も苦手だった。小さい頃からキサヤは離れで乳母の親子と暮らしていた。今も会いたいのは彼らであって親兄弟では無い。
血が半分つながっていること。容姿が良かったこと、そのせいで放逐されなかっただけだと知っていたから、都から『飾りの妃』として選ばれた時、キサヤは酷くほっとした。
――これでここから出ることができる。そう思った。
キサヤが連れて行かれてすぐに乳母の親子は暇を出されたと聞いてキサヤは心底がっかりした。
南方の自然の方がこの屋敷よりもよっぽど懐かしいと感じる。ここはもはや自分の居る場所では無いとキサヤは思う。
正装を解いて下の着物だけになっていたその時、部屋の扉が開いた。
「索冥さまったら」
――三宮だろうか? だけど主役が宴から出てくることは不作法なことだ。すぐ戻れと言ったほうがいいと思いながらもキサヤの口元が緩む。
「久しいな」
しかし入って来たのは、三宮でなく兄のガイドウだった。
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