道行5

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道行5

「放してくださいっ」  圧し掛かる体を押し上げようとするが、肩に縋るくらいに相手は思っているのかもしれない。それほどびくともしなかった。 「親が決めたし、子どもはいるからな。だが、本当に抱きたいと思っていたのはキサヤだ。ずっと想い続けてきたんだから」  所詮、力で押えこめばなんとかなると思っている。思いを遂げる? 自分が長年温めていた下世話な妄想を現実に移そうとしているだけじゃないか。相手の意思を確かめようなど思いつかない。いや、相手に心があるなんて思ってもいないのだ、きっと。  だからどうだと言うのだ? 今までおれを抱くのを夢見てきたから思いどおりになれとでも言うのだろうかとキサヤはガイドウを見上げた。 「申し訳ありませんが、兄上さまの意には添えません。手をお放しください」 「大声を上げても誰も来ないぞ、キサヤ。みんな宴のほうに駆り出されているからな」  無遠慮に着物の合わせ目から手を入れてくるごつい手にキサヤは噛みついた。 「うわっ」  咄嗟に犬歯が伸びてしまっていたらしく、ガイドウの手首からは血が滴っていた。そんなに酷くするつもりなんてさらさら無かった。だが、自分に触れていいのはただ一人だとキサヤは決めている。 「わたしを小者だと侮ると後悔しますよ、兄上さま」  腕をかばうように身を起したガイドウを睨みつけながらキサヤは寝台から降りた。キサヤがまさか自分に盾つくようなまねをするとは思わなかったとガイドウは笑った。  そう笑ったのだ。 「これはこれで面白い」  傷口をべろりと舐めてガイドウは目を細めた。自分の脇をすり抜けて戸口に向かおうとするキサヤの後ろを追いかける。  ――助かった。  ガイドウより先に扉に手がかかりほっとしたキサヤの頭越しに太い腕が伸びて開きかけていた扉をばたんと閉められた。 「逃げられるとでも思っているのか」  荒い息はここまで走ってきたせいじゃない。この男は興奮している。逃げるキサヤを捕まえて抱くことを楽しむつもりなのだ。  いくら勉強したって、自分は中身を見てはもらえない。価値があるのは外見だけ。まるで娼婦と同じ。湧き上がる怒りで我を忘れそうになるが拳を握って必死で耐える。いつの間にか伸びた爪が掌に突き刺さっていた。
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