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「屋台じゃないんです。街を見てました」
と、答えた。
「街を?」
「ええ。僕はアメリカの建設関係の会社のものです。この発展目覚ましいバレンに、今度、弊社が技術協力をすることに決まりましてね。それで、その視察に街を見て回っていたんです」
中年男性は、
「そうでしたか。あ、いやすみませんでした」
そう言って一礼すると、そのまま踵を返していっていまった。
その時、ディルは気づいた。
あの中年男性。
体は大柄で太っているのに、足首と手首は異様に細い。
太った中年男性の姿は変装だ。
まさか、あいつが?
ディルはちらりと青年スパイを見る。
青年スパイは平然と、とぼけた顔で買い食いに夢中になっている。
あいつの隠れ家は押さえてある。
逃げられはしないたろう。
ディルは一旦青年スパイから離れることにした。
太った中年男性を尾行することにした。
この街で変装している者など、スパイか、もしくはメルトか、だ。
さらに怪しいことに、中年男性はディルを屋台に誘ったではないか。
ディルに食事をさせるために。
あいつがメルトである可能性は高い。
青年スパイを放ってでも、中年男性を確かめてみる価値はある。
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