追察

3/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「屋台じゃないんです。街を見てました」 と、答えた。 「街を?」 「ええ。僕はアメリカの建設関係の会社のものです。この発展目覚ましいバレンに、今度、弊社が技術協力をすることに決まりましてね。それで、その視察に街を見て回っていたんです」 中年男性は、 「そうでしたか。あ、いやすみませんでした」 そう言って一礼すると、そのまま踵を返していっていまった。 その時、ディルは気づいた。 あの中年男性。 体は大柄で太っているのに、足首と手首は異様に細い。 太った中年男性の姿は変装だ。 まさか、あいつが? ディルはちらりと青年スパイを見る。 青年スパイは平然と、とぼけた顔で買い食いに夢中になっている。 あいつの隠れ家は押さえてある。 逃げられはしないたろう。 ディルは一旦青年スパイから離れることにした。 太った中年男性を尾行することにした。 この街で変装している者など、スパイか、もしくはメルトか、だ。 さらに怪しいことに、中年男性はディルを屋台に誘ったではないか。 ディルに食事をさせるために。 あいつがメルトである可能性は高い。 青年スパイを放ってでも、中年男性を確かめてみる価値はある。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!