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今のディルは、アメリカ国籍の大手建設会社の視察役という設定で抜かりはないはずだ。
実際、検問官もパスポートを疑っている様子はない。
「どうも」と、ぶっきらぼうにではあったが、パスポートはすんなりディルに返された。
なのに、
「水の持ち込みは許可できない」
と、検問官は全てのボトルを取り出し、それを没収してしまった。
「何か、問題でも?」
ディルは尋ねる。
「この国は島国だもので、生態系も独特だ。たとえ水でも、微生物が持ち込まれて、それが破壊されては困るのだ。……文句があるなら国に言いな。これは紛れなく、国家方針だ」
検問官はニヤニヤと、嫌味な笑みで答えた。
水の没収はできれば避けたい。
1つの保険がなくなってしまう。
だがここで食い下がっては、本来の目的が達成できなくなる。
ディルは嘆息して、
「仕方ないですね」
と、検問官に同意した。
すっかり軽くなったキャリーバッグを受け取りながら、ディルは気持ちを切り替える。
ともかく、これでバレン共和国への潜入は果たせたのである。
あとは……、
「メルト、か。……さぁて、どっから手をつけたものかな」
つぶやきながら、ディルはターミナルの方へと進んでいった。
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