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潜入
スーツ姿に、オールバックに整えた髪。
渋い光を放つシルバーのタイピン。
ディルはそういういでたちでバレンの空港に降り立つ。
ビジネスを装っているが、その実は違う。
ディルは颯爽と順路を進み、荷物受けでキャリーバッグを受け取ろうとする。
そこで検問官に止められた。
「何ですか?」
と、突然の呼び止めにもディルはにこやかに応じた。
こういうことには慣れている。
だから、下手な抵抗は逆効果だと知っているのである。
「バッグの中を改めさせてもらう」
検問官はとても横柄な態度だ。
「どうぞ」
と、それでもディルは微笑んだ。
腹はたったが、心象を悪くしたくはない。
検問官が荒くバッグを開ける。
中身は全てミネラルウォーターのペットボトルだった。
「これは何だね?」
その異常なペットボトルの量に検問官の顔が、ますます厳しくなる。
だが、ディルは微笑みを崩さない。
「この国は湧き水を飲用にしてると聞きました。僕は湧き水はダメなんだ」
ディルは答えたが、検問官はどうにも納得してはいないようだ。
「パスポートを拝見したい」
言われて、ディルはパスポートを開いて見せた。
偽装のパスポートだが、本国の諜報当局が造ったものだから精度は本物以上だ。
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