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イヤホンをつけてトーク画面をじっと睨んでいると、画面の表示が変わり通話画面になった。
すでにつながっているのは分かったが、何となく相手からの言葉を待った。
「……もしもし、きよひこくん?浩太郎です」
「…あ、はい。こんばんは。あ、はじめまして?」
「あぁ、はじめまして。こんばんは」
焼き立てパンのような安らぎと柔らかさのある、声だった。
メッセージでやり取りをしているときに感じた静かな雰囲気そのままのようで、
文字が具現化したようだ。
「きみ、通話とか普段する?あ、友だちとかじゃなくて、掲示板で知り合った人とかのことね」
「えっと、あんまりない…すね」
「そうだよね。こんな回りくどいことはなかなかしないだろうなぁ。普通」
「こう、たろうさんは、話し相手がいないんですか」
「まぁ、そんなとこかなぁ。はは」
何かを言い淀むような壁を感じる返答。俺もそうだが、警戒しているのが伝わる。
この探りさぐり話す雰囲気がゲームのようで新鮮でもあるが、イマイチ調子がつかめない。
地雷がどこに埋まっているか分からないこともあり、ヘタに話をセクシャルな話題に持っていくこともできない。
「えっと、浩太郎さんはいま、いくつなんですか」
「35歳だよ。清彦くんは?差し支えなければ」
「にじゅうよ…、ごです。25」
「25?じゃあ、ちょうど10歳違うのか」
こういう時いわれがちな「若いねぇ」という言葉が続かなかったことに安堵する。
そういうのは、バカにされているようで好きではない。年齢なんてただの目安でしかないんだから。
「脈絡なくいきなり話すんだけど、4年前の今日、恋人にフラれたんだ」
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