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2度目の誕生日
メッセージのやりとりをはじめて、2度目の誕生日が来た。
そして、やりとりをはじめて、42回目の通話だ。
「…そういえばさ、今日清彦くんの誕生日じゃなかった?」
「よく覚えてくれていますね。ありがとうございます」
さっきまで沈んでいた心の中のピンポン球が急に浮上する。
なかなか着地せず、せわしない。
さらっとこういうことを言ってくれるこの人のことを、俺はずっと静かに好きでいる。
「俺は、浩太郎さんの誕生日、覚えていなくてすいません…。
去年もこうして通話で祝ってくれたのに」
「そんなこと。僕は昔から誕生日が特別な日だっていう感覚がないし、僕くらいの年齢になると、そういうのもうどうでもよくなるんだ」
「…でも、俺だって26だし。それなりに大人ですよ」
「オトナね。そう、だね」
少し含みを持って、ゆっくりとつぶやいた。
俺は小馬鹿にされたのかと思って、反論しようとしたがそれこそ子どもっぽいのでは
と思い直し、口をつぐんだ。
「…で、浩太郎さんの誕生日、教えて」
「ふふ…6月25日だよ。僕、清彦くんのそういうとこ、いいなって思うよ」
「何ですか、それ。そういうとこって」
「そういう、聞きにくいことをずばっと正面切ってもう一度聞くところ。
潔いっていうか、ヘンにごまかすことなく忘れたことを隠さないだろ」
「ど、どうも…。もう、忘れないっすよ」
…来年は絶対俺から祝ってやる。
そうして、会社の鞄から手帳を取り出して、書き込む。
……「いいな」ってどういうことだよ。
どういう意味、だよ。
でも、聞いたら終わるって知っている。
「誕生日、おめでとう」
一年前と同じ、いやそれ以上の親しみと甘さを加えた「おめでとう」に、俺は電話越しにどぎまぎした。
「ありがとう」
そう返事することで精一杯だ。
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