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★ハクイン&リオガンの場合
「トリック オア トリート」
「え?」
午後の穏やかな時間、悪戯っぽい顔で言われたリオガンはコテンと首を傾げた。
ハクインは子供っぽい笑顔を浮かべている。なんだかとっても楽しそうに。
それにしても、どうしよう。『お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ』なんて、突然で何にも持ってないと思う。お腹、空いたのかな? 甘い物好きだから、食べたくなっちゃったのかな?
オロオロしながらあちこちのポケットを探ってみる。胸の隠しやズボンのポケット。そして上着のポケットに、硬い感触があってそれを引っ張り出した。
「あ」
それは今日のお昼、ご飯を食べたお店の女将さんがくれたものだった。赤い包装の飴玉が一粒、ポロッと手の平に転がる。
「あの、これでいい?」
ドキドキして問いかけると、ハクインは驚いた顔をしている。
もしかして、飴玉の気分じゃなかった? お腹空いてるなら、足りないよね。クッキーとか、そういうのが良かったのかな?
「ぷっ、あはははは! もう、リオガン今日が何の日か気付いてない?」
「え?」
「死者の祝祭日! もう、普通あの合い言葉だけで気付くと思うけど」
そう、いえばそうかも。最近町が賑やかだなって思ったけれど、そうか。収穫祭じゃなかったんだ。
ハクインがクスリと笑っている。困った顔で、リオガンの頭を撫でた。
「お菓子、色々作ってみたんだ。よかったら一緒にお茶しようって、誘いにきたの。なのに、本当に真面目なんだから」
「あっ、ごめん」
「ううん、そういうのちゃんと分かってる。からかって、ごめんな」
機嫌良さそうに笑うハクインが手を差し出してくる。誘われているんだって分かるから、素直にその手を取った。
手をつないで、ちょっと恥ずかしそうに頬を染めるハクインの隣り、ずっとこうしていたいなって、リオガンは素直に思っている。
END
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