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「風呂行ったのか。匂いだけでもと思ったんだがな」
「……そんなに食べたかったら、一緒に来てもいいだろ」
「レイバン」
料理人にしてはがっちりとした胸に抱きついて、レイバンは鼻を寄せた。甘い匂いがする。カボチャに、砂糖に、卵にバター? 栗の匂いもする?
「ジェイさん」
「それで、レイバン。お菓子はあるのか?」
「え? あぁ、えっと……」
クッキーを出そうとジェイクに背中を向けたレイバンだったが、その体は動かない。後ろから抱きとめられて、温かな重みがかかっている。
「ばーか、悪戯されろ」
「……うん」
振り向いて、見つめ合って、ドアも開いているのに甘い甘いキスをする。不思議と、どんな店のどんなスイーツよりも甘くて、蕩けてしまいそうになる。
「んぅ……あっ、気持ちよくなる。まだ、仕事……」
「お前の機嫌が悪いって、アルフォンスが笑って当番入れ替えてくれたんだよ。俺の仕事は朝で終わっている」
「じゃあ、どうして一緒に来なかったの?」
拗ねて言ってみたけれど、理由はこの匂いだけで十分。甘い甘い、秋のスイーツの匂い。
「お前と一緒に食べる菓子を、作りたかったんだよ。外のじゃない、俺のだ」
「言ってくれれば、拗ねたりしないのに」
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