私と死神の×年間

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
私は死神に出逢った事がある。 これは所謂比喩ではなく、本物の死神の事だ。何故なら、彼自身がそう名乗ったからである。長閑な市民公園で夕日を背にしたパーカーの彼はおよそらしくはなかったが、言われた事を素直に信じる程には、あの日の私は幼かった。 彼は死神を名乗る前に、どうしたの、と訊いた。私の顔を汚してくしゃくしゃにしていたからだろう。 当時可愛がっていた文鳥が死んで仕舞って、お墓を作っていた途中だったのだ。穏やかな声、あまりに優しい穏やかな声だったから、脳裏にあの子の最後がくっきりと滲み、私の糸はぷつんと切れた。脱走常習犯で元気だったあの子が突然餌を食べなくなり、餌を変えても病院に行っても治らなくて、いよいよ羽根が抜けて痩せ細って仕舞った後、ぴぃ、と隙間風のような音を一つして、あの子の機関はそれなり止まった。一旦は止まっていた涙がまた決壊して溢れ出すと、彼は酷く狼狽して、ごめん、と何に謝っているのか分からないがしきりに謝って、私はそれをいい事に、自分の嘆きをただぶつけた。何も出来なかったと、とても苦しそうだったと、哀しみと後悔と自責とが混ざった調子でわんわん喚いた。彼はそれを甘んじて聞き、酷く迷惑であったと思う、くたくたになるまで待って、少し勢いの弱くなった処で切り出した。 「……その子は天国で幸せになるよ」 どうしてそんな事が言える、半ば八つ当たり気味に噛み付いた私に、彼は遠慮がちに肩を竦めて言ったのだ。 「僕は死神で、その子の魂を天国に連れて行く為に此処に来たから」 彼の顔は声と同じで穏やかだった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!