これは絶対、愛じゃない

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「よじりんんんーっ!やだぁー!卒業じだぐないいぃーっ!」 「ぎゃあきゃあ喚くな。うるさい。」 「うわ゛ーんっ!いつものことだけどよじりんがひどいいーっ!」  耳栓をしても脳を揺らす泣き声のせいで学生時代を思い出してしまった。  もう10年近く前の事だ。懐かしい気持ちが薄いのは、特記事項が少ないから記憶にあまり残っていないせいだろう。  泣き上戸の同級生は未だに涙脆い所は変わっておらず、けれど立派に教職に就いている。世も末だ。公務員や教職を目指す人数が減ったせいで、あんな奴まで教師になれるのだから。  時折連絡を取り合っている…というよりも一方的にメールや電話で近況を教えてくるので知りたくもないのに奴の受持ち生徒の名前まで覚えてしまったが、写真を送ってくるのはやめてほしい。通信が無駄に重くなるし、そもそも生徒の了承は得ているのだろうか。最近はプライバシーの観点云々で名札を付けない学校が増えているというのに、いつか訴えられても擁護はしないぞ、まったく。 「よじりんがいない生活なんて耐えらんないぃぃっ!」  しかし、なんだ。僕の周りには、どうしてこんなに喧しい奴が寄ってくるのか。  何かがあるとすぐに喚く所といい、同級生と似たところがある生徒を見下ろす。  中村優紀18歳、一つ上の代が引退してからはテニス部キャプテンを1年間務めた明るく活発な女子生徒だ。普段は縛らずに肩甲骨辺りで揺らす日に焼けた黒髪を、今日は耳よりも少し高い位置で一つに括っている。化粧はしておらず、スカート丈も規定内で文句はない。賢明な判断だ。実に理に適っている…が、愛称が【みっちー】であることだけは未だ理解に苦しむ。そう呼んでほしいからと中村本人が主張しているが、みの字もちの字も入っていないのにおかしなことだ。それでも友人や後輩は受け入れているのだから更におかしなことだと思う。人徳の賜物だろうか。  そのみっちーもとい中村は制服の胸ポケットに造花を一輪挿し入れ、今日の日をもってこの学校を卒業する。
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