俺の隣にはいつも一人の幽霊がいる

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 夕食の後、姉さんが俺を部屋に呼び出した。  俺はそれでようやく姉さんがテレビの件で悩んでいたことを思い出したのだ。俺の気持ちは彼に対する罪悪感で一杯で正直それどころではなかった。  部屋で小さなローテーブルを境に膝をつき合わせた俺と姉さんは抱える悩みの種こそ違うが、沈鬱な表情は全く同じだった。  口火を切ったのは姉さんだった。  「私、昔から……多分幽霊の存在を感じることが多々あったの」  衝撃的な内容に俺は口をあんぐりと開けた。  「姉さんも……?」  思わずそんな呟きが零れる。そして説明を促してきた姉さんに従って俺は素直に彼の話をしてしまった。  幼い頃から彼の積極的な口止めもあって、家族や周囲の人間に彼のことを話したことは一度もなかった。  どれだけ彼との間で楽しいことがあっても、自慢したいとウズウズすることがあっても、絶対に。  普段ならそんな積み重ねも相まって簡単に彼のことを話そうなんて気にはならなかった。けれど俺は彼への自分の仕打ちに心底打ちのめされていたから、簡単に口を割ってしまったのだ。  全てを聞き終わった姉さんは魂の抜けたような顔をして小さく「そう……」と漏らした。  「じゃあ、私も話すわ。私の知っていること全部……」  姉さんがおもむろに立ち上がって、自分の机に向かった。そして鍵付きの引き出しを開錠し、中から何かを取り出し戻ってきた。  コトンとテーブルの上に置かれたそれは小さなガラスの小瓶だった。中は全体的に白っぽい粉が七分目辺りまでを満たしていた。  「何、これ?」  「遺灰よ」  姉さんの応えに俺は絶句した。  衝撃の後に続くのは誰のという問いだ。姉さんは言わずも察したのか瓶の表面を指で撫でながら口を開く。  「……私の弟のね」  「弟って……」  俺たちは二人姉弟の筈だ。姉のブラックジョークだろうか?  「アンタにとっては兄に当たる人の、遺灰なの」  姉さんの冗談ではないと分かっても全く俺の緊張は解れなかった。  沈み込んだ空気を変えるためか、姉さんが笑った。でもその笑顔は歪で全く効果はない。  「この子は、生まれる前に殺されてしまったの……両親の望む子じゃないって分かってしまったから」  「忌まわしい出生前診断によってね」
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