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そしてそれは現実になった。
「うあっ……!」
短い呻き声を上げ
地上へ落ちて行ったのは僕ではなくルカだった。
しかし――。
「九条さん……?」
僕は助かったんだと素直に喜ぶには状況は悪すぎた。
「僕が……突き落としたんだ……」
風に巻き上げられる栗色の豊かな髪が
己の両手を見つめたまま呆然と立ち尽くす彼の顔を半分隠した。
「君が悪いんじゃない!」
僕は飛び起きて
すぐに彼の手をとった。
「君は僕を助けようとしただけだ。だからそう……正当防衛ってやつだよ。君は悪くない!」
しかし何度言い聞かせたところで――。
「でも僕が殺した……今この手で僕が人を殺した」
救われない。
「ああ違う……君は悪くないんだったら……!」
僕は一番無垢な人の手を
穢させてしまった。
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