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本来ならもっと早く
薫の入院している病院に着くはずだった。
方向音痴の僕がとんでもない方向さえ指さなければ。
ダメな僕が病院の名前さえちゃんと憶えていたなら。
「ごめんね。僕のせいだ……」
「とにかく車を降りて行こう」
なので病院に辿り着いたのはすでに丑三つ時に近かった。
魑魅魍魎どもが最も活発に動き回る時間だ。
もちろん吸血鬼もしかり――。
「誰もいないよ」
しかし病院内は静かなものだった。
救急病棟の受付にも人の気配はなく
病棟の電気もほぼほぼ消えてしまっていた。
「今日は急患のいない静かな夜なのかもね」
九条さんが入り口で尻込みする僕の手を引きながら言った。
「そうかな……」
「君の読み、外れたんじゃないの?」
それならいい。
それなら――断然いい。
しかし歩を進めるごと
僕は違和感を覚えずにいられなかった。
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