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いつしか地面にうずくまったままの薫が
啜り泣く声が聞こえてきた。
その声を聞くや九条さんは
暗い地面をのぞき込むようにカクンと膝を折った。
「どうしよう……」
情けない僕はおろおろと
そんな世界の崩壊を見つめ立ち尽くす。
その時だ。
「見ろよ――これがおまえのしたことだ」
世界の崩壊と共に訪れる靴音。
振り向けばいつもと同じ憎らしい溜息を吐く征司がいた。
「征司お兄様……助けて下さい……」
僕は当然のように助けを求めて柵の向こうに手を伸ばす。
しかし柵を握って重なる手が
触れた途端に僕は気づいてしまった。
冷たい――征司は今来たんじゃない。
だいぶ前からそこにいたんだと――。
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